痰はウイルスや細菌などの病原体とホコリやアレルギー物質などの異物を体外に排出しようとする身体の仕組みですが、量が多かったり、粘り気があったりすると喉に絡んで咳や息苦しさを引き起こす原因となることもあります。
このような痰の症状を改善するために使われるのが去痰薬であり、成分によって作用が異なるのが特徴です。
今回は去痰薬の中でも気道粘液溶解薬と呼ばれるビソルボンの効果や副作用を紹介し、他の去痰薬との使い分けについて解説していきます。
さらに痰の色の違いによる原因と疑われる病気についてもまとめたので、長期間痰に悩まされている方は参考にしてください。
気道粘液溶解薬とは
気道粘液溶解薬とは気道の粘膜に働きかけ、粘り気が強く喉に絡んでなかなか外に出せない痰をサラサラに変化させて体外に排出しやすくする作用を持つ去痰薬です。
ブロムヘキシン塩酸塩を使用したビソルボン注4mgという注射液や、ビソルボン吸入液0.2%という吸入剤の先発薬が気道粘液溶解薬としてサノフィから販売されています。
後発医薬品はブロムヘキシン塩酸塩という成分名がついた注射液や吸入剤、錠剤、シロップ剤などが、武田テバファーマや皇漢堂製薬をはじめとする複数の製薬会社から販売されています。
気道粘液溶解薬の効果
痰は水分とムチンという成分で構成され、通常時はムチンの中のシアル酸の割合が多いためサラサラしていますが、気管支に異物が入って感染症やアレルギー反応などを引き起こすとムチンの中のフコースの割合を増やし、痰の粘り気を強くして異物を絡め取って体外に排出しようと身体が働きます。
しかしながら、粘り気の強すぎる痰は体外に排出しづらいうえに、気管支が炎症を起こすと排出するための繊毛運動の機能も低下し、痰が喉にへばりついたような状態を引き起こしてしまいます。
このような状態の痰の粘り気を下げて繊毛運動を高める効果を持つのが、気道粘液溶解薬のブロムヘキシン塩酸塩です。
ブロムヘキシン塩酸塩は気道上皮細胞のリソソーム酵素を活性化し、痰の中のムチンの線維を細かくして粘度を下げたり、肺サーファクタントの分泌を促進して気道粘膜の繊毛運動を活性化させたりする作用によって、痰を体外に排出しやすくします。
このような作用があるブロムヘキシン塩酸塩は、慢性気管支炎や気管支喘息の痰を排出、慢性閉塞性肺疾患や肺気腫の呼吸機能の改善などに使用されています。
しかしながら、薄めるために痰の量が増えたように感じること、サラサラになりすぎることで反対に痰が排出しにくくなってしまうことがブロムヘキシン塩酸塩のデメリットでもあります。
さらに鼻水に対する効果が確認できていないことから、慢性副鼻腔炎や蓄膿症の排膿には使用されません。
そのため、鼻の症状が伴うような痰絡みに対してはブロムヘキシン塩酸塩ではなく、カルボシステインやアンブロキソール塩酸塩といった去痰薬が処方されることが多いのが現状です。
気道粘液溶解薬の用法用量
気道粘液溶解薬のビソルボンやブロムヘキシン塩酸塩の用法用量は剤型によって異なります。
例えば、錠剤のブロムヘキシン塩酸塩錠4mgは1回1錠を1日3回服用するのが基本ですが、その量は年齢や症状によって適宜増減します。
また、飲むタイミングについては、副作用の消化器症状を軽減するためにも食後の服用が推奨されています。
吸入剤のビソルボン吸入液0.2%は、成人であれば2mlの0.2%溶液を生理食塩液などで2.5倍に希釈してネブライザーを用いて1日3回吸入しますが、こちらも年齢や症状によって増減します。
注意点としては、吸入用溶液の作り置きはせずに調整後はすぐに使用し、吸入した後は口腔内の薬剤を除去するためにうがいを必ずするようにしてください。
気道粘液溶解薬の副作用
気道粘液溶解薬の副作用は、剤型によって少し異なります。
錠剤のブロムヘキシン塩酸塩錠4mgでは、吐き気や食欲不振、腹痛、下痢といった消化器症状の他に、頭痛、蕁麻疹、血痰などの副作用が現れる可能性があります。
さらに重大な副作用としてはアナフィラキシー、発疹、気管支痙攣、呼吸困難などの報告もありますが、頻度はごく稀とされています。
吸入剤のビソルボン吸入液0.2%では、吐き気や下痢に加えて、咽頭痛、咽頭刺激感、咳、喘息発作、喘鳴を引き起こす恐れがあります。
重大な副作用はブロムヘキシン塩酸塩錠4mgと同じく、アナフィラキシー、発疹、気管支痙攣、呼吸困難です。
これらの薬剤は比較的副作用が少ないとされていますが、使用中に体調の異変を感じた時には速やかに医療機関を受診してください。
気道粘液溶解薬の禁忌・飲み合わせ
気道粘液溶解薬の禁忌については錠剤も吸入剤も同じで、過敏症を引き起こしたことがある方と妊娠中の方は使用禁止、授乳中の方や小児までの子ども、高齢者は注意して使用する必要があります。
飲み合わせに関しては、次にあげる薬剤との相互作用に注意してください。
コデインやデキストロメトルファンなどの鎮咳薬は咳を鎮めることによる痰の排出阻害、エリスロマイシンやセフポドキシムなどの抗菌薬は血中濃度が上昇する恐れ、テオフィリンなどの気管支拡張薬は効果が強くなりすぎてしまう可能性があります。
気道粘液溶解薬と他の薬剤を併用したい時には、自己判断はせず、医師や薬剤師に相談しましょう。
気道粘液溶解薬と他の去痰薬の使い分け
気道粘液溶解薬をはじめとする去痰薬には複数の種類があり、処方薬・市販薬ともに様々な薬剤が販売されています。
ここでは処方薬と市販薬それぞれの去痰薬について紹介します。
去痰薬の処方薬
気道粘液溶解薬と呼ばれるブロムヘキシン塩酸塩を主成分としたビソルボン以外にも、気道粘液修復薬と呼ばれるL-カルボシステインを主成分としたムコダインや、気道粘液潤滑薬と呼ばれるアンブロキソール塩酸塩を主成分としたムコソルバンといった去痰薬があります。
ムコダインは痰の量を減らして痰の粘りを緩和する作用と、気道粘膜の繊毛細胞の減少を抑えて繊毛運動機能を改善する作用を持つ薬剤です。
これに加えて、鼻水の粘りを軽減したり、中耳貯留液を排出させて耳管の粘膜を整えたりする作用を持つため、痰や鼻水の改善だけでなく、中耳炎の治療にも使用されます。
ムコソルバンは肺サーファクタントの改善や繊毛運動を活性化して痰を体外に排出しやすくする作用と、鼻腔の状態を整えて鼻水を出しやすくする作用があります。
このようにムコダインやムコソルバンには鼻の症状を改善する作用があることから、鼻水に対する作用が確認されていないビソルボンよりも、処方されることが多いです。
去痰薬の市販薬
市販薬としても去痰薬の成分が配合された薬剤が販売されています。
これまで処方でしか手に入れることができなかったムコダインは、2024年に医療用と同量のL-カルボシステインが配合されたムコダイン去たん錠Pro500が発売され、薬局やドラッグストアで購入できるようになりました。
加えて、L-カルボシステインとブロムヘキシン塩酸塩の2つの成分が配合されたクールワン去たんソフトカプセルRN、ストナ去たんカプセル、去痰CB錠といった去痰薬も市販で販売されています。
他にも去痰薬の成分にプラスして咳を鎮める成分が配合された鎮咳去痰薬として、クールワンせき止めGXプラス、新エスエスブロン錠エース、リココデSクリアといった市販薬も販売されています。
このような鎮咳去痰薬以外にも、様々な成分が配合された総合感冒薬などに去痰薬の成分も含有されているケースがあります。
痰の色からわかる病気のサインとは
ここまで気道粘液溶解薬を中心に去痰薬について解説してきましたが、最後に痰と病気の関連性について紹介します。
痰には色がついていることがあり、それが何色であるかによって原因や疑いのある病気を推測できると言われています。
まず、通常の痰は無色〜白色をしていますが、気管支炎の初期症状や気管支喘息も無色や白色をしていることがあるので、痰の量が増えたら注意が必要です。
黄色で粘り気の強い痰は病原体を倒すための免疫細胞の好中球が痰の中に多くあることによるもので、ウイルスや細菌などに感染している恐れがあり、急性咽頭炎や急性気管支炎などの病気の疑いがあります。
緑色の痰は緑膿菌に感染している可能性があり、もしかしたら慢性気管支炎やびまん性汎細気管支炎を引き起こしていることが原因かもしれません。
様々な色があるなかでも特に注意が必要なのが、血が混じっている赤系の痰です。
ピンク色で泡のような痰は出血して空気が混じることが原因として考えられるため、肺水腫といった病気が、赤色の痰は肺からの出血の可能性があることから肺出血が疑われます。
暗い赤色の痰は下気道からの出血の特徴でもあり、肺がんや肺結核などが原因かもしれません。
このように変わった色の痰は病気のサインである可能性が考えられます。
ここで紹介した例はあくまでも目安ではありますが、体調が改善しない時や異変を感じた時にはできるだけ早く医療機関を受診するようにしてください。
気道粘液溶解薬は痰をサラサラにする去痰薬
気道粘液溶解薬は粘り気が強く喉に絡んでなかなか外に出せない痰をサラサラに変化させて体外に排出しやすくする去痰薬で、先発薬のビソルボンや後発品のブロムヘキシン塩酸塩を使用した注射液、吸入剤、錠剤、シロップ剤があります。
しかしながら、痰がサラサラになりすぎると反対に排出しにくくなってしまうことや、ブロムヘキシン塩酸塩には鼻水に対する効果が期待できないことから、鼻水を伴う感染症にはL-カルボシステインやアンブロキソール塩酸塩を使用するケースが多くなっています。
市販薬でも医療用と同量のL-カルボシステインが配合された製品や、去痰薬の成分が配合された咳止めの鎮咳去痰薬が販売され、病院に行かなくても薬剤が手に入るようになりました。
「忙しいから病院に行けない」と放置することはせずに、まずはできる範囲で症状と向き合ってみてはいかがでしょうか。