気道に侵入した細菌やウイルスなどの病原体や、埃やカビといった有害物質を体外に排出するために分泌される痰ですが、痰が溜まると息苦しくなったり咳が出たりすることがあります。
息苦しさや咳で体力を消耗したり、寝つきが悪くなったりするのを防ぐためにも、痰はスムーズに排出するのが望ましいと言えます。
このような時に痰を体外に排出しやすくするのが気道潤滑薬のムコソルバンをはじめとする去痰薬です。
今回は気道潤滑薬のムコソルバンを中心に効果や飲み合わせ、他の去痰薬との違いについて解説していきます。
痰が喉に絡んで辛い方は参考にしてください。
気道潤滑薬ムコソルバンとは
ムコソルバンは気道潤滑薬と呼ばれる去痰薬の1つで、気道粘膜の繊毛運動を活性化させて痰を体外に排出するのを促す働きをする薬剤です。
ムコソルバンの一般名はアンブロキソール塩酸塩といい、錠剤や散剤、シロップ剤などの剤型の先発品があり、後発品にはアンブロキソール塩酸塩という名前が付いたカプセル剤や錠剤、散剤、シロップ剤などの薬剤が各製薬会社から販売されています。
ムコソルバンの効果
ムコソルバンには肺胞の内側を覆う界面活性物質である肺サーファクタントの分泌を促すのと同時に、気道粘膜の繊毛運動を活性化させて、痰を体外に排出しやすくする効果があります。
このような作用により、気管が炎症を起こして体外に排出しにくくなった粘り気のある痰や、嚥下機能が弱く自力で痰を出すのが難しい子どもや高齢者でも痰を吐き出しやすくなります。
さらに、痰を排出しやすくなるムコソルバンには、気道に痰が溜まることで出る咳や喉の痛み、不快感を緩和する効果もあると言われています。
そのため、気管支喘息や慢性気管支炎、肺結核、新型コロナウイルスに罹患した時の痰の改善に使用されることもあります。
ムコソルバンの用法用量
成人の場合、ムコソルバン錠15mgであれば1回1錠を1日3回服用しますが、ムコソルバンL45mgであれば1回1錠を1日1回服用します。
1日1回服用の場合は就寝時の痰が絡みによる咳や息苦しさを緩和するために、夕食後に服用するケースが多くなっています。
また、ムコソルバンL45mgは体内で徐々に薬が溶けて、長時間効果が得られるように作られた徐放性製剤です。
細かく割って飲むと薬剤の効果が強く出過ぎてしまう恐れもあるので、そのまま飲むようにしてください。
ムコソルバンの副作用
ムコソルバンの副作用は胃の不快感や腹痛、下痢といった消化器症状、顔やまぶたのむくみ、皮膚のかゆみや蕁麻疹といった皮膚症状です。
重篤な副作用としてはアナフィラキシーや呼吸困難、皮膚粘膜眼症候群などが報告されていますが、頻度はごく稀です。
副作用は少ない薬剤ですが、体調に異変を感じた時には医師や薬剤師に相談してください。
ムコソルバンの飲み合わせと禁忌
ムコソルバンは過敏症がある方、妊娠中の方の使用は禁止、授乳中の方や高齢者は注意して使用しなければなりません。
相互作用を引き起こす薬剤は特にないとされており、同じ去痰薬ながら作用機序の異なるムコダインとも同時に処方されることもあります。
ムコソルバンの販売中止の理由
2021年3月末でムコソルバンDS3%の販売は諸般の事情によって中止となりましたが、他のムコソルバン錠15mg、ムコソルバンL錠45mg、ムコソルバン内用液0.75%、小児用ムコソルバンDS1.5%、小児用ムコソルバンシロップ0.3%については販売が継続されています。
また、2021年12月からムコソルバン錠15mgは、他社の薬剤の出荷調整の影響を受けて需要過剰となったことで出荷調整となりましたが、出荷状況が安定したために2024年10月に通常出荷が再開されています。
ムコソルバンの市販薬
ムコソルバンの主成分であるアンブロキソール塩酸塩が含まれている市販薬は、鼻水を緩和する抗ヒスタミン成分や喉の痛みや熱を抑える解熱鎮痛成分など、他の様々な成分が一緒に配合されている総合感冒薬になっていることが多いです。
例えば、大正製薬のパブロンSゴールドW微粒にはアンブロキソール塩酸塩に加えて、去痰薬ムコダインの主成分であるL-カルボシステイン、中枢性鎮咳薬のジヒドロコデインリン酸塩、解熱鎮痛薬のアセトアミノフェンなどが配合されています。
他にも、興和のコルゲンIB透明カプセルαプラスや、エスエス製薬のエスタックEXNeoといった市販薬にもアンブロキソール塩酸塩が配合されています。
総合感冒薬は様々な成分が配合されているため、副作用に注意が必要です。
眠気などを引き起こす恐れがある成分が配合されている場合は、乗り物の運転や危険を伴う機械操作は避けなければなりません。
気道潤滑薬ムコソルバンと他の去痰薬との違い
気道潤滑薬と呼ばれるムコソルバン以外にも、ムコダインやビソルボンといった去痰薬があり、その作用はムコソルバンと少し異なります。
ここではムコダインとビソルボンのムコソルバンとの違いについて触れていきます。
ムコソルバンとムコダインの違い
ムコソルバンは肺サーファクタントを改善して繊毛運動を活性化させることで痰を体外に排出する作用がありますが、ムコダインは痰の粘り気を抑えるのと同時に痰の量も減らす働きをします。
痰にはムチンというムコ多糖類に分類される成分が含まれており、通常であればムチンの中のシアル酸によってサラサラしていますが、病原体などの異物が気管支に入るとフコースの割合が増えて粘り気が増します。
異物を巻き込みやすくするために痰は粘り気を増しますが、粘り気が強くなりすぎると痰をうまく体外に排出できなくなってしまいます。
このような場合に痰の粘りを正常化して、体外に排出しやすくするのがムコダインです。
これらの作用に加えて、繊毛細胞の減少を抑えて繊毛運動の機能を改善する働きもあることから、タバコによる慢性気管支炎のCOPDや、中耳炎などにも使用されるのが特徴です。
ムコダインの主成分はカルボシステインで、シロップ剤や錠剤などの剤型があります。
ムコソルバンと同じ去痰薬に分類されていますが、その作用は大きく異なることから併用することも一般的です。
ムコダインは副作用の少ない安全性の高い薬剤ですが、食欲不振や下痢、発疹などが現れることがあります。
またごく稀な症状ではありますが、アナフィラキシー、肝機能障害、重い皮膚症状の報告もあるため、体調に違和感がある時には医師や薬剤師に相談するようにしてください。
ムコソルバンとビソルボンの違い
ビソルボンは去痰薬の中でも気道粘液溶解薬と呼ばれており、粘り気のあるムチンの繊維を分解して痰をサラサラにする作用があります。
さらに肺サーファクタントの分泌を促進したり、繊毛運動を活性化したりする働きもありますが、ムコソルバンやムコダインとは異なり、慢性副鼻腔炎や蓄膿症などにはほとんど効果はないとされています。
また、ビソルボンは古くから使用されている去痰薬ですが、痰をサラサラすることで痰の量が増えてしまったり、粘度が低いために痰を出しにくくなってしまうことがあることから、現在はビソルボンよりもムコソルバンやムコダインを使用することが多くなっています。
ビソルボンはブロムヘキシン塩酸塩が主成分の薬剤で、錠剤やシロップ剤といった内服薬があります。
吐き気や食欲不振、発疹などの副作用の他、重篤な副作用としてアナフィラキシーの報告もありますが、その頻度はごく稀とされています。
痰の辛さを緩和する生活のポイント
痰が絡むと咳が出たり、息苦しくなったりして、体力消耗や睡眠不足を引き起こす要因ともなります。
気道潤滑薬のムコソルバンに加えて、痰の辛さを緩和する生活のポイントを取り入れ、体調を整えていきましょう。
睡眠は横向き寝で
横向き寝はうつ伏せや仰向け寝に比べて気道が確保しやすいため、痰が原因となる咳を緩和できます。
さらに枕を少し高くすることで痰や鼻水が喉に流れにくくなるので、喉や咳が辛い時には試してみてください。
水分補給は積極的に
痰の94%は水分で構成されているため、体内の水分が減ると痰の粘度が上がって喉に絡みやすくなります。
水分はいつもよりも多めに摂ることを意識し、痰の粘度を下げて体外に排出しやすくしましょう。
特に温かい飲み物は気道の繊毛運動を活性化させるため、痰を出しやすくします。
殺菌作用や粘膜保護作用があるハチミツ入りのホットレモンなどがおすすめです。
刺激は避ける
香辛料やアルコールは、気道を刺激したり喉粘膜を傷つけたりするので避けましょう。
食べ物だけでなく、喉に負担をかける大きな声を出すことや乾燥する場所に長時間滞在することも控えてください。
また、タバコは気道を刺激して痰や咳を誘発します。
さらに肺がんや慢性気管支炎、心筋梗塞などの病気のリスクも高めることから、健康を守るためにも禁煙を心掛けましょう。
気道潤滑薬ムコソルバンはムコダインと併用できる去痰薬
気道潤滑薬ムコソルバンはアンブロキソール塩酸塩が主成分の去痰薬で、カプセル剤や錠剤、散剤、シロップ剤が各製薬会社から販売されています。
ムコソルバンには肺サーファクタントの分泌を促し気道粘膜の繊毛運動を活性化させて、痰を体外に排出しやすくする効果があり、気管支喘息や慢性気管支炎、肺結核、新型コロナウイルスに罹患した時の痰の改善に使用されます。
同じ去痰薬に分類されるムコダインとは作用が大きく異なることから、さらに効果を高めるために併用して使用することも一般的です。
痰が辛い時には温かい水分を十分に摂り、気道を狭めないように横向きで寝るとよいでしょう。
また、喉の粘膜を守るためにも刺激は避けるようにしてください。